こんにちは、中野ブロードウェイの時計店「れんず」です。
腕時計には多くの魅力に溢れていますが、今回はその中でも「夜光」をピックアップ!
個人的にも時計の夜光は大好きなので、その魅力と歴史をお伝えできればと思います。
厳選して3つのモデルをご紹介いたしますので、ぜひ最後までご覧くださいね。
夜光とは

△ チューダー ブラックベイ GMT M79830RB-0010 オパライン
「夜光」。
それは時計に仕込まれた先人の知恵。
そして夜、あるいは暗い場所でのみ見ることができる、腕時計のもうひとつの顔です。
「暗い場所で光ること」を夜光といい、夜光塗料をインデックスや針に仕込むことで、暗い場所でも時刻を確認できるようにしています。
「夜光」という名前で呼ばれてはいますが、海中や洞窟のように常時暗い場所でも大活躍します。
そのため、パイロットウォッチやダイバーズウォッチのようなプロフェッショナルウォッチに備わっていることが多いです。

△ オメガ シーマスター アクアテラ GMT 231.13.43.22.03.001
現在、多くの時計で用いられている夜光は蓄光タイプ。
かつては光をチャージしなくても光ることができる自発光タイプの塗料が使われていましたが、とある事情から現在の蓄光タイプが台頭するようになりました。
夜光の歴史
ラジウム

△ パネライ ラジオミール PAM00141(画像のモデルはスーパールミノバを使用)
最初の「夜光」は、およそ1900年代初頭に登場した、ラジウムを使用したものです。
蛍光物質とラジウムの放射線がぶつかることで発光する仕組みとなっており、多くの時計メーカーで採用されました。
ラジウムは一生使える夜光塗料?
ここでちょっと難しい話を挟みます。
全ての放射性物質は、放射線を放ち続けながら崩壊していきます。
崩壊しきると別の元素に変わるのですが、この時間は物質によって異なっており、最初の状態から半分崩壊するまでの時間を「半減期」と呼びます。
例えば半減期が8日であれば、「8日経つと全体の半分が崩壊。更に8日経つとその半分が崩壊。更に8日経つとその半分が……」といったように、半減期の分だけ時間が経つと、残っている放射性物質のおよそ半分が崩壊し、ゆっくりと別の元素に変わっていきます。
ラジウムは、その半減期が1600年。
1600年経ってようやく放射線の強さが半減するので、半永久的に使える夜光塗料だとして人気となったのです。
かつてのロレックスや精工舎(現・セイコー)でも用いられていた過去があり、パネライの人気コレクション「ラジオミール」は、当時使用していたラジウム塗料を名前の由来としています。
今はもう使われていない
しかし、このラジウム夜光は現在、使用されていません。
今となっては皆さまもご存じの通り、放射性物質は人体に影響を及ぼすものです。
ガラスによって文字盤が覆われているため、時計の使用者には特に影響がありませんでしたが、製造工場にて多大な影響が出てしまったのです。
ラジウムを時計に塗る際、筆先を舌で舐めて整えていたことが大きな原因だったといわれています。
1960年にはほとんどのメーカーが使用をやめ、1967年に国際原子力機関(IAEA)から勧告が出されたことで、ラジウム塗料は完全に使用されなくなりました。
ちなみに、時折アンティークモデルとして中古市場に姿を見せるラジウム塗料が用いられた時計にブラックライトを当ててみても、当時のような極めて明るい発光は見られない場合がほとんどです。
いくらラジウムの半減期が果てしなく長くても、蛍光物質の劣化が訪れてしまうためです。
逆に言えば、蛍光物質の劣化が少ない個体はコレクターズアイテムとしての価値が高いです。
後年に別の夜光塗料に交換されている場合もあるため、綺麗に残存している個体は非常に少ないのです。
トリチウム
さて、ラジウムが使われなくなった後。
今度は「トリチウム夜光」が広く使われるようになりました。
ラジウムと同様に、トリチウムも自発光タイプの夜光塗料です。
光る仕組みもラジウムと一緒で、放射性物質であるトリチウムと蛍光物質がぶつかることで発光します。
しかし、ラジウムとの大きな違いは「弱さ」です。
半減期が1600年もあるラジウムに対して、トリチウムの半減期は12年ほど。
しかも放射線が空気中を進む力も弱く、皮膚すら通過できません。
もし体内に入ってしまっても水と一緒に排出されるため、蓄積されていくこともありません。
その弱さ(=安全さ)故に、多くのブランドがトリチウム夜光を使うようになりました。
しかし、トリチウムも放射性物質。
原子核が崩壊を続け、段々と夜光としての機能を失っていきます。
残存しているトリチウム夜光を使用したモデルは今でも淡く光るものの、当時の輝きを保っている個体はそう多くありません。
どれだけ保管状態が良くても、原子核の崩壊と蛍光物質の劣化は止められないためです。
経年変化によってクリーム色~オレンジ色に灼けたトリチウム夜光モデルは中古市場でも人気で、このヴィンテージ感を味わうためにわざとインデックスや針の色を調整しているモデルも存在します。

△ オメガ スピードマスター 310.30.40.50.06.001
(画像のモデルはインデックス・針にスーパールミノバを使用しているが、ヴィンテージ感を出すためにわざとオレンジっぽい色にしている)
夜光が綺麗に変色しているモデルに対して、その色から「パンプキンダイヤル」と呼ぶこともありますね。
ラジウム夜光に比べて安全性が高く、比較的見かけることも多いためか、トリチウム夜光は時計愛好家にとって馴染み深い存在であるといえます。
近年まで使われていた
ちなみに、トリチウム夜光を使ったモデルは結構最近まで出ていました。
およそ1999年まで使われていたトリチウム夜光。
文字盤の6時側にある「SWISS MADE」をトリチウムのTで囲っていたり、安全な数値内でトリチウムを使用していることを示す「T<25」という表記があったりして、簡単に見分けることができます。
参考:https://fukushima-updates.reconstruction.go.jp/faq/fk_290.html
なお、パネライの「ルミノール」もまた、夜光塗料を由来とするコレクションです。
ラジウム夜光が使用できなくなったパネライは、トリチウムをベースに独自開発した夜光塗料を用いて、「ルミノール」コレクションを築き上げていきました。
スーパールミノバ(N夜光・ルミノーバ)
1993年。トリチウムに代わる画期的な夜光塗料が登場しました。
「N夜光」「ルミノーバ」と呼ばれるその新夜光は、これまでのような放射性物質を利用した自発光タイプの夜光ではなく、光をチャージして発光する蓄光タイプでした。
その中でも非常に明るい光を放つものは「スーパールミノバ」と呼ばれ、こちらの名前の方がよく聞くという方も多いでしょう。
カラーバリエーションやグレードも複数展開があり、現在も地域を問わず世界中の時計メーカーに採用されています。
そんなルミノーバを開発したのは、なんと日本の「根本特殊化学株式会社」。
日本の会社なんですね。すごい!
放射性物質を含まないので健康上の不安もなく、塗料の寿命の心配もない。
しかも従来のものより抜群に明るく、光の持続時間も長い!
スーパールミノバはまさに夢のような夜光塗料だとして、瞬く間に普及していきました。
時計産業の聖地・スイスに向けてこの優秀な夜光塗料を供給するため、スイスの「RCトライテック社」と合併した子会社「ルミノバAG」を設立します。
ちなみに、「スーパールミノバ」の商標はこちらのルミノバAGが持っています。
ブランドによって夜光の色が違うのは何故?

△ 画像は根本特殊化学株式会社より。
既にご存じだった方には「(笑)」な話かもしれませんが、私、最初ルミノーバって液体だと思ってたんですよね。
時計のインデックスや針に塗布されている状態でしか目にしないので、なんとなく液体を指す言葉だと思っていました。
しかし、ルミノーバ/スーパールミノバは「顔料」であり、粉末です。
その粉末をレジンのようなとろとろの液体と混ぜることで、インデックスや針に塗布できる状態にしているのです。
この時の配合の割合や混ぜる素材の差、インデックスの形等によって、発光時の色味や光の強さが変わってきます。
しかも、先述した通りスーパールミノバの中にもカラーバリエーションやグレードがあるので、どれを使用しているかによっても結果が変わってきます。
その為、「同じスーパールミノバを使用しているのに、ブランドによって色や輝度が違う」という状態になるのです。

例えばこの2本。
左の赤い方がチューダー ブラックベイ、右の緑がオメガ シーマスターです。
どちらも夜光は「スーパールミノバ」ですが……。

ご覧の通り。
同じ時間、同じ場所で光をチャージしたこの2本ですが、色も輝度も違いますよね。
シーマスターの方は、インデックスや針がヴィンテージライクな色合いになっており、更によく見ると分針とルミナスポイントの色が異なっております。
視認性向上のために使い分けていますね! 夜光上級者です。
セイコーの「ルミブライト」
セイコー/グランドセイコーでは、夜光を「ルミブライト」と呼称しています。
一見別物のように感じますが、他ブランドと同様にスーパールミノバを使用した夜光塗料であるといわれています。
大手国産時計メーカーでは、夜光に独自の名前を付けていることが多いです。
セイコー/グランドセイコーでの「ルミブライト」の他に、カシオでは「ネオブライト」、シチズンでは「ナチュライト」といった具合です。
これは「スーパールミノバ」という商標名の明記を避けるため、そしてブランドの独自性をアピールするためだと考えられます。
汎用ムーブメントに手を加えて、自社の刻印を入れる流れと同じですね。
別物といえば別物だけど、完全に違うものというわけでもない……みたいな感じです。
ロレックスのクロマライト
ロレックスでは、「クロマライト」という名称の青い夜光を使用しています。
2007年頃まではスーパールミノバを使用していたロレックスでしたが、2008年からはクロマライトに切り替わりました。
その頃に登場したミルガウスでは、スーパールミノバとクロマライトを両方使用していたりします。
ミルガウスが青や緑の光を放っていると、電気属性感が増していいですね。好きです。
「ロレックスが開発した特許取得の発光素材」という表記がロレックスの公式サイトにあるので、ルミブライト等とはまた扱いが別かな?と個人的には思っております。
夜光といえば? おすすめモデル3選
お待たせいたしました。
ここからは夜光が素敵なモデルを、厳選して3つご紹介いたします。
(厳選できなかった結果、ここまでで沢山画像を載せていたのですが……)
もちろん、異論は大いに認めます。
かなり個人的な意見が反映された3本となっておりますので、各々、自分だけの最強の夜光時計を見つけてください。
よろしくお願いします。
パネライ ルミノール マリーナ PAM01117

やはり、「夜光おすすめモデル」というテーマでパネライを挙げないわけにはいきませんよね!
パネライの多くのモデルに採用されている「サンドイッチ文字盤」。
文字盤を2層にすることで、よりはっきりと夜光を光らせることに成功しています。
「サンドイッチ文字盤のパネライウォッチならどれでもいいんじゃない?」と思うかもしれませんね。
正直パネライウォッチはどのモデルだって夜光を楽しむのにはもってこいなのですが、こちらのPAM01117はちょっと特別なのです。

△ 画像はれんず公式twitterから。
私がこの写真を気に入り過ぎ&実物は既に売れてしまって新たに撮影できないという状況が重なり、至るところで使いまくっているこの写真。
普通のパネライウォッチでは光らないところが光っているんです。
ベゼルリング、リューズプロテクター、そしてストラップのステッチ!
また、写真ではよく見えませんが、リューズも光っております。
このモデルは2020年に登場した限定モデルです。
1949年の1月11日に「ルミノール」という名称の特許を取ったパネライ。
その翌年に生まれたルミノールは、2020年で70周年を迎えました。
アニバーサリーモデルというわけですね。
この「PAM01117」の他にあと2本、同じく限定モデルが出ており(PAM1118とPAM0119)、これらはなんと70年もの保証期間を持っています。
ほんとに???と疑ってしまう程の保証期間ですが、「これまで70年間続いてきたんだから、今後も70年以上いけます」というパネライの強気な姿勢が窺えて良いですよね。好ましいです。
270本限定の、特別なモデル。
特別モデルゆえの、特別仕様の夜光。
また入荷した際には、たっぷり撮影したい……!
そんな一本です。
シャネル J12 コズミック H7990

初めてこのモデルを見たときの衝撃は、恋と言っていいでしょう。
「文字盤全てが光る時計」は、一定数存在します。
なんならケースが丸ごと光る時計だってあります。
このJ12だって、そのうちの一つに過ぎません。

△ まず、このモデルとは……何か(ウットリ)
シャネルのJ12、名前は「コズミック」。
2023年に登場した、「インターステラー」というテーマのカプセルコレクションのひとつです。
インデックスはなく、文字盤は宇宙的なモチーフとココシャネルで満たされています。
普段は真っ白な文字盤なのですが、光を吸収した文字盤が淡いブルーに染まります。
それは私だけに見せてくれる、穏やかで柔らかな表情────。
ロレックスのクロマライトやパネライの夜光のように、ばちばちのびかびかに輝く夜光も大好きなのですが、この淡さにやられちゃいました。走り出したときめきが止まりません。
ちなみに、文字盤の中にはダイヤモンドがセットされていて、角度によって星のように煌めきます。
シャネルらしいユニークなデザインセンスと夜光技術を掛け合わせた、限定モデルです。
チューダー ペラゴスFXD クロノ M25807KN-0001

すいませんね、限定モデルばっかり挙げて……。
こちらは、「アリンギ・レッドブル・レーシング」というセーリングチームとのパートナーシップを記念して発表されたモデルです!
2023年に登場した限定品で、クロノグラフがあるモデル・ないモデルが一緒に登場しています。


※ちょうど在庫があって撮影できたのがクロノグラフモデルなので、今回はこちらを選出しました。
チューダーは基本的にグリーンのスーパールミノバを使用していますが、ペラゴスコレクションではブルーの夜光を使用しています。

綺麗!
このモデル、インデックスがブロックになっていて、それが丸ごと光ってるんですよ。
私はそこが好きです。
ちなみにこのタイプのインデックスは、このモデルの他にも「ペラゴス 39」や「ブラックベイ プロ」の一部モデルでも見ることができます。

ファンタジーの世界で採れる星の石、みたいな綺麗さです。

ベゼル、針、ルミナスポイント、インデックス。
全てが強く発光するので、夜道を歩くのが楽しくなっちゃいますね。
車を運転していてトンネルに入った瞬間や、夜帰ってきて部屋の電気を付ける直前など、夜光を見るタイミングは様々ですが、いつ見ても夜光は持ち主をきゅんとさせます。
そうして、オーナーは自らの時計に何度でも惚れ直すのでしょう……。
ということで、夜光塗料が歩んできた歴史と、個人的に好きな夜光ウォッチを3つご紹介いたしました。
れんずの公式twitterでもこのように時々写真と共に呟いているのですが、本当に夜光ってブランド、モデルごとに使い方が異なっていて、見ていて面白いな~、好きだな~と感じます。
おまけ
も、もう一個だけ紹介していいですか?

こちらは「スピニカー」という時計ブランドと「seconde/seconde/(セコンドセコンド)」というフランスの時計デザイナーがコラボした限定モデルです!
当店、今のところスピニカーの取り扱いはないのですが、twitterのタイムラインで相互の方がお迎えしているのを見て存在を知り、可愛いな~!と思い続けているモデルのひとつです。
※厳密にはこのモデルではないのですが、ちょっと公式サイト等に見つからなかったです!! 無念!!!
でもこっちのおばけウォッチも可愛いと思うのです。

このモデル、どこが光ると思いますか?

ここです!
色とりどりの夜光でぼんやりと発光するおばけが可愛い!
これで夜道でも寂しくないですね。
もちろん、インデックスと針も光りますよ。
このモデルは2024年のコラボモデルで、価格はおよそ「switch2(マリオカート同梱版)と、マイクロSDカードと、プロコンを同時に買ったとき+1万円」くらい……。
機械式時計の価格に見慣れている方なら、「ありだな」と思えるようなお値段です。
もし手にした方がいらっしゃったら、私に見せに中野まで来てください。よろしくお願いします。
スピニカー公式サイトはコチラ
沢山夜光の写真を撮って、沢山夜光の話ができたので満足しました。
またよろしくお願いします。

△ これは撮ったけど使わなかった、カルティエのカリブルです
◆ その他のおすすめ記事 ◆
↑ このスピマスパイロットの夜光も素敵でした。
NY
この記事の監修者

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好みの時計:ダイヤモンドが多くセットされているゴージャスな時計
1971年11月11日産まれ
東京都中野区出身
業界歴:2007年より時計業界に従事
22歳イベント企画会社入社。
その後、総合商社に総合職で入社、平日は経理、土日祝は地方営業。
その後、学生時代の知人に頼まれ厨房設備の運搬設置業に携わる。
2001年、某有名店社長と出会い、時計業界に誘われる。
2007年に独立し、現在に至る。
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