こんにちは、中野ブロードウェイの時計店「れんず」です。
マスタークロノメーターとクロノメーター。
どちらも機械式腕時計の商品説明欄で見かける単語ではないかと思います。
「マスター」が付いているので、なんとなく「マスタークロノメーターの方がすごそう!」という印象を抱くことはできますが、では具体的に何が違うのでしょうか。
今回はこちらについて解説いたします!
クロノメーター
マスタークロノメーターを知るには、まずは「クロノメーター」を知る必要があります。
とはいっても、「クロノメーターって何?」という記事は以前出しているので、こちらも併せてご覧ください。
△ チューダーのぺラゴスです。6時位置に「CHRONOMETER」の文字がありますね。
歴史、成り立ちはこちらの記事をご覧いただくとして、クロノメーターとは、「この腕時計は高精度ですよ」という規格のことです。
COSC(スイス公式クロノメーター検定機関)という場所で検査をし、合否を出しています。
この商品を皆さんにお届けするにあたって、こういう内容のテストをして、クリアしてきました!というのが「規格」です。
JISマークなどが有名ですね。
人間でいえば「漢字検定2級持ってます」みたいな。
それを聞くだけで「漢字に強い人なんだな」と伝わりますよね。
つまり、「クロノメーターです」と商品ページに書いてあったら、「精度が良いんだ!」と思ってもらえればOKです。
そんな高精度の証を授かった時計に対して、「クロノメーター認定を受けている」といった風に表現します。
このCOSCによるクロノメーター認証はスイス時計にのみ与えられるものなので、スイス以外で作られた時計はどれだけ優れていてもこの規格を通すことができません。
あくまでも優秀なスイス時計にのみ与えられる称号となっております。
ただ、このクロノメーター規格が全てではありません。
あくまでもこれは数ある規格の中のひとつ。
また別のテストを行うことで、精度や品質をアピールしているブランドもあります。
例えば日本のグランドセイコーは、「GS規格」「新GS規格」「GSS規格」という独自の厳しい規格をクリアしたモデルのみを世に出していますよ。
なお、このCOSCのテストは、ムーブメントにのみ行われる検査となっております。
マスタークロノメーター
さて、クロノメーターが何なのかはお分かりいただけたことでしょう。
高精度な時計だと認定する規格、そしてその認定されたモデルに対する称号です。
ではそこに「マスター」が付くと……?
そうです。グレードアップします。
このマスタークロノメーターも、同じく「すっごい精度が良いです」と認定するための規格、そして称号です。
ただ、先ほどのCOSCとはまた別の場所が行っている、別の、そして上位のテストになります。
まず、METAS(スイス連邦計量・認定局)という場所で行われるテストは、COSCによる検査を合格したクロノメーターでないと受けられません。
マスタークロノメーターになるには、クロノメーターになる必要があるんですね。
ポケモンでいう、ヒトモシがランプラーになり、シャンデラになっていく流れと同じですね。
△ オメガの332.10.41.51.01.001です。「MASTER CHRONOMETER」の文字が確認できます。
クロノメーターとしてCOSCに認定された後、8つの試験に挑むことになります。
気になる8つの試験とは、こちら。
1.磁場に置かれたときのムーブメントの機能
現代は、基本的に電子機器や磁石で溢れています。
スマホ、パソコン、バッグの金具……。
機械式時計の天敵である磁力は、ムーブメントを磁気帯びさせて精度を狂わせてしまいます。
15,000ガウス(約1,200,000A/m)というかなり強い磁場にムーブメントを配置し、きちんと時を刻めるかを確認します。
これを超えられないようでは、マスタークロノメーターを名乗ることは許されません。
2.磁場に曝されているときの時計の機能
先ほどはムーブメント単体での検査でした。
こちらはケースに入れた状態で、再び15,000ガウスの高磁場に時計をセット。
その中でも問題なく高精度を保てるかを確認します。
3.帯磁と消磁
まず、ゼンマイを巻き上げた状態で高磁場に曝します。
普通の時計であればまず間違いなく磁気帯びしているだろうという状態にするんですね。
そんな中、24時間かけて公式電波時計との時差を確かめていきます。
このとき、6つの異なる姿勢でチェックを行っています。
翌日、磁気を取り除いた状態で再度同じ検査を行います。
帯磁状態と消磁状態で精度に大きな誤差がなければ、対象のモデルは耐磁性が高いといえますよね。
4.時間経過と関係のない精度
あらゆる着用シーンを想定し、何パターンかの環境下で精度のチェックを行います。
手首に着けた状態=人肌に触れ、体温が時計に伝わっている状態として33度。
手首から外した状態として、23度。
この2つの温度下で、定期的に姿勢を変えて精度をチェックします。
1日の内に許される誤差は0~+5秒。
COSCの許容範囲は-4~+6秒なので、非常に厳格であることが分かりますね。
ちなみに、先ほどの帯磁&消磁状態での測定も、このテスト内に含まれています。
5.6姿勢における精度の誤差
時計を着けていても着けていなくても、人は基本的に動き続けています。
このテストでは、60秒ごとに時計の位置と姿勢を変えながら、ムーブメントの振動音で精度を算出します。
どんなに時計の姿勢が変わり続けても、精度に問題がないことをチェックします。
6.等時性
フルにゼンマイを巻き上げたときは精度が良くても、ゼンマイが解けてきたら精度が落ちてしまう時計は「精度が良い」と言えるでしょうか。
このテストでは、パワーリザーブが100%のときと、33%のときで精度の誤差をチェックします。
7.パワーリザーブ
時計のゼンマイを完全に巻き上げてから、動きが止まるまでの時間をパワーリザーブと呼びます。
ゼンマイを巻き上げて止まるまでの時間をチェックし、基準を満たす時間まで問題なく動いていたかを確認します。
8.防水性能
時計を水槽に沈めます。
数分~数時間かけて圧力をかけていき、その時計が耐えられる限界までテストを行います。
3気圧(30m)~150気圧(1500m)までのテストを行うことができます。
その後、水からあがった時計を40~45度の熱い環境に曝し、サファイアクリスタルガラスに冷水を垂らします。
内側に水滴が生じてしまうと、不合格です。
なお、ダイバーズウォッチをテストする場合は、安全性を確実に保証するため、規定よりも更に25%強い水圧でテストを行っています。
これら全てを超えると、晴れてマスタークロノメーターとして認められます。
今のところ、このテストを超えてマスタークロノメーターの認定を受けているのは、オメガとチューダーの一部モデルのみとなります。
ムーブメントの精度に関する検査のみを行うCOSCのクロノメーター。
それに対し、METASのマスタークロノメーターは精度チェックに加え、耐磁性、パワーリザーブ、防水性の検査も行っています。
マスタークロノメーターは、より実際の着用シーンを想定した、厳密な検査を行っていることが分かりましたね。
似ている単語
ギリシャ語で時間を表す「クロノス」。
この言葉から派生して、時間に関連する言葉に「クロノ」とつきがちになりました。
おまけとして、よく耳にする「クロノメーター」と似ている単語をご紹介しておきます。
クロノグラフ
△ IWC ポートフィノ IW391028
ストップウォッチ機能が付いている腕時計のことをクロノグラフといいます。
特にこのクロノグラフとクロノメーターを混同している方が多いようで、多くの時計ブランドの「よくある質問」に、このふたつの違いについて記載されています。
クロノグラフは機能、クロノメーターは規格なので、めちゃめちゃ別物です。
クロノマスター
△ 03.2045.400/22.C496
ゼニスが展開するコレクションのひとつです。
クロノグラフ機能が搭載されています。
クロノマット
△ A011BWJPA
ブライトリングが展開するコレクションのひとつです。
世界で初めて回転計算尺を備えた腕時計として登場し、名前はクロノグラフ(CHRONOGRAPH)と数学(MATHEMATICS)を組み合わせて付けられたといわれていますが、クロノグラフ機能のないモデルも登場しています。
クロノスイス
△ CH-6923-TUBK
「スイス時計の素晴らしさを世界に広めたい」という想いから創立された、ドイツの時計ブランドの名前です。
クロノスタシス
△ クロノトウキョウ 34mm スモーク
時計の秒針などが一瞬だけ止まって見える現象のことです。
連続的に動いているはずなのに、素早く眼球を動かした直後に目にした映像が長く続いて見えるせいで、一瞬だけ時が止まったかのような錯覚に陥ってしまいます。
ちなみに、この素早く眼球を動かすときの動作のことを「サッカード」と呼ぶそうです。
「マスタークロノメーター」と「クロノメーター」の違い、これでお分かりいただけたかと思います。
どちらも時計の品質に関わる規格で、別の機関が検査を行っています。
検査内容は異なっていて、マスターの方がより詳細にチェックしている、ということですね。
COSCのクロノメーターは多くのスイス時計ブランドが取得していますが、マスタークロノメーターは現状オメガとチューダーが取得しているのみ。
今後、他ブランドでも増えていくでしょうか。
それとも、ロレックスのように独自の厳しい規格で対抗してくるでしょうか。
自社製ムーブメントを搭載し、スケルトンバックやクリスタルサファイアケースで中身を見せることでブランド力をアピールするメーカーが増えてきていますから、今後も多くのブランドが精度やムーブメントの美しさという点においても、しっかりと自社のこだわりを見せてくれるはずです。
NY
この記事の監修者

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好きなブランド: 全般。あえてあげるならブレゲです。
1987年生まれ、埼玉県出身
日本時計輸入協会認定 ウオッチコーディネーター(CWC)
業界歴13年
20歳でアパレル業界へ入り、服飾販売員として勤務をしたのち、かねてより興味のあったブランド業界へ。
時計だけでなくジュエリーやバッグ等、ハイブランド商品をオールジャンルで取扱う某社にて経験を積んでいく過程で時計の奥深さに惹かれ、時計部門の責任者となる。
れんず入社後、店舗販売スタッフとして従事したのち店長を経て、2023年11月から統括責任者として就任。
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