こんにちは、中野ブロードウェイの時計店「れんず」です。
あけましておめでとうございます。
2024年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、2024年は辰年ということで、今年最初のブログはリューズをテーマにして執筆してみたいと思います。
日時の調整をしたり、ゼンマイを巻いたりするための部品、リューズ。
「ほう」と思った方も「なんで?」と思った方も、どうぞ最後までご覧ください。
リューズは漢字で書くと「竜頭」
時計の3時側(レフティ仕様のときは9時側)についている、ボタンのようなキャップのような出っ張り。
これが「リューズ」です。「リュウズ」でもOKです。これを漢字で書くと、「竜頭」だとされています。
由来はお寺の釣鐘。
そして腕時計は懐中時計をベースに作られていったものであることがポイントです。
埼玉県・川越にある「時の鐘」のように、昔の人は鐘の音で時刻を把握していました。
その釣鐘を吊るすパーツが竜の頭のような装飾を施されていたことから、人々から「竜頭」と呼ばれていたのです。
△東京・増上寺の大梵鐘
鐘に食らいついているような、口がくっついちゃったみたいな、そんな装飾ですね。
△鐘の竜頭と、懐中時計のリュウズ。並べてみるとまあ似てるな~と思います。
なお、この時の「竜頭」は、あくまでも鐘を吊るすための輪っかの部分/鎖や紐を繋ぐための輪っかの部分の方がメイン要素でした。
時刻合わせもゼンマイを巻くこともできないので、現在のリューズとはだいぶ役割が違っていたことが分かりますね。
ということで(諸説あるとは思われますが)、リューズが「竜頭」から付いた名称であることがお分かりいただけたかと思います。
「リューズ」って実は日本語だったんですね。なんとなく「意外~」と感じるのは私だけでしょうか。
出典・画像:シチズン りゅうずの歴史
海外での「リューズ」
ロレックスの商品詳細を見てみると、日本語では「リューズ」と書かれている部分が英語では「Winding crown」、中国語で見れば「上链表冠」と記載されており、DeepL先生に聞いてみても、どちらも同じ言葉です👍とのことでした。
Windingは巻き取る、crownは王冠、冠です。
よって、基本的に日本以外は「冠」として呼んでいることが分かります。
他の言語を見ても、リューズと呼んでいる国は特になさそうでした。
この記事のURL内に何故「crown」が入っているのか、ご理解いただけたかと思います。
丸い懐中時計の頭上にちょこんと乗っかるリューズを見ていると、その様子は確かに王冠に見えるぞ、という気持ちもわかる気がします。
高級で貴重なものですから、そういうイメージのある言葉を選ぶのも分かりますね。
時計が流通し出した頃に説明書や口頭で「このクラウンの部分は~」みたいな説明を受ければ、自然と「ああ、そこは“冠“と呼ぶのだな」と受け取るでしょうし、どんどんその名前がヨーロッパ中、そして世界中に広がっていったのでしょう。
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これは私の想像ですが、日本にも「冠」として伝わってきたけど、日本の冠と海外の冠は結構形状が違ったので上手く浸透しなかった説があると思います。
RPGの王様が乗っけているようなふっくらした丸い王冠と、おだいり様が着けている黒くて長いやつとでは、だいぶ印象違いますもんね。
また、日本に王様がいないことも関係しているかもしれません。
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ロレックスのリューズにはロゴである王冠が刻まれていますが、「クラウンにクラウンが刻まれている」みたいな状態だったのですね! 愉快です。
△ロレックス オイスター パーペチュアル 41 124300 セレブレーション
様々なデザインのリューズ
さて、リューズへの理解が深まり、なんだか興味が湧いてきたかと思います。
時刻を知るための道具としてだけではなく、しばしば己の手首を彩るファッションアイテムとしても愛されている機械式時計。
リューズひとつでも多種多様なデザインを持っています。いくつかご紹介いたします。
大きい!
△IWC ビッグ パイロット ウォッチ プティプランス IW501002
パイロットウォッチはその名の通りパイロットに向けたウォッチですので、グローブを着けたままでも操作しやすいようにリューズが大きめに作られていることが多いです。
大きいリューズは操作しやすくて好きだけど、ちょっと手の甲に当たって痛いぞ!という方は、手首のくるぶしよりも少し下げて着用されるのがオススメです。
小さい!
△カルティエ タンクフランセーズ SM アイボリー W51008Q3
レディースウォッチはケースがそもそも小さいので、リューズも小さくなりがちです。特にカルティエはすごいですね。
装着イメージ画像を見ていただくと、その小ささ、華奢さがより分かりやすいかと思います。
リュウズプロテクター!
△リュウズプロテクターに守られたリューズにも、ちゃんとブルースピネルがついています
△カルティエ パシャ ドゥ カルティエ WSPA0026 ダークグレー
カルティエの「パシャ」「バロンブルー」や、パネライの「ルミノール」「サブマーシブル」が特に有名ですね。
基本的には防水性を高めるためだったりリューズを守るためだったり、性能として必要だったからこそ生まれたのです。
それがそのまま個性となり、現在も多くの人々から選ばれる理由のひとつとなっているなんて、素敵ですね。
リュウズガード!
△ロレックス サブマリーナー デイト ブラック 126610LN
さっきのリューズプロテクターとは何が違うの?と思う方も多いことでしょう。
直接リューズを包み込んで守っているのがプロテクター、リューズの上下にそびえる出っ張りがリューズガード……と、私は認識しています。
しかしどちらも同じ「リューズを守るもの」としての意味は同じなので、混同して使っている方がほとんどのようです。
呼びやすい方、イメージに合う方で呼んでいきたいと思います!
なお、パネライの「レバーロック式リューズプロテクター」はパネライが特許を持っており、唯一無二の個性であるといえるでしょう。
オニオン!
△クロノスイス レギュレーター トゥールビヨン シルバー CH3121
クロノスイスのお時計は、丸くてふっくらした玉ねぎのような形のリューズが採用されています。
非常につまみやすく、とても操作性が高いです。
ちなみにクロノスイス日本公式アカウントによれば、ちょっと潰れた形のものはカボチャクラウンと呼ぶそうです。
ロゴ入り!
△ノモス ラドウィッグ オートマティック シルバー LD1E2W2 / 251
こういう小さなパーツにも、職人さんの魂はこもっています。
よく“神は細部に宿る”といいますが、細かいところに目がいき、手を抜かないからこそ一流なんですよね。
それはもちろんリューズだけでなく、ケースの中に納められているネジや歯車ひとつでさえ、時間をかけて丁寧に生み出されています。
だから機械式時計って価値があるんですよね。素敵です!
操作性アップ! 統一感アップ!
△タグホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ CBG2A10.FT6168
△オーデマピゲ ロイヤルオーク デュアルタイム ブルー 26120ST.OO.1220ST.02
基本的にどのお時計も操作性を上げるためにギザギザしています。
ですが、更に操作性を上げるためにラバー素材を使っているお時計もあれば、オーデマピゲのロイヤルオークのように全体のデザインと調和したリューズもあります。
3時側だけじゃない!
「リューズが手の甲に当たるのがどうしても気になる!」
「左利きなので右腕に着けて左手で操作したい」
「左腕にスマートウォッチ、右腕に機械式時計を着けたい」
と、このように様々な方がいらっしゃるかと思います。
そんな多様性溢れる皆様に合わせて、リューズも至るところに移動しております。
中には「リューズはケースの裏側にあります」みたいなお時計もあります!
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基本的に当店で扱ったことのあるお時計から選びました。
ですが、まだ見ぬ遊び心や天才の発想が詰め込まれたリューズが世界には沢山あると思います。
あとは、「この時計のリューズ、好きなんだよね。特に……」とか話せるとすごい玄人っぽいですよね。
機械式時計の存在を知って一年ほど経った私ですが、まだまだ「操作しやすいなあ」「綺麗だなあ」くらいの感想しか出てこないですね。精進します。
個人的には、チューダー、ブラックベイのリューズが操作しやすくて好きですね。
検品するとき、万が一でもお時計を傷つけないよう丁寧にお時計を扱うので、引き出しやすさ、回しやすさがやけに印象深いです!
リューズの使い方
基本的には、
「リューズを1日に30~40回ほど巻き上げて動力を確保する」
「引き出したリューズで時刻を合わせる」
「リューズを元の位置に戻して使う/保管する」
という流れになります。
お時計の機能や種類、メーカーによっても細かく使い方が分かれてくるので、詳細な使用方法はご購入時に改めてスタッフにお問い合わせいただければと思います!
※また、どのお時計であっても無理やり力で解決しようとするのはNGです。
優しく普通の力で操作しても上手くいかない時は、操作方法が間違っているか、お時計の内部に何か問題があるかのどちらかです。
操作方法をご確認の上、スタッフにご相談くださいね。
巻き上げ方法
ねじ込み式の場合は、リューズを操作可能にするため、6時側に回してロックを解除します。
特にねじ込まれていないタイプであれば、そのままの状態で巻き上げられるようになっています。
親指と人差し指で12時側へ回すと、ゼンマイを巻き上げることができます。
(この時、基本的にはゼンマイが回っている音が聞こえますが、すごく静かに巻き上がるお時計もありますので、「音がしない……」と汗をかく必要はありません!)
△ねじ込み式のリューズはロックを解除すると12時側(上側)に回せるようになる
リューズは1日1回、毎日同じ時間に巻き上げると良いとされています。(体重計に乗るタイミングと一緒ですね!)
通勤中の乗り換え待ちの時間や、お昼休憩の時間、帰ってからの晩酌中など、お好みのタイミングで行っていただければと思います。
優しくぐるぐると30~40回ほど巻き上げればOKです。
時刻の合わせ方
ゼンマイを巻ける状態から、最大までリューズを引き出します。
お時計によって一段だけの場合もあれば、二段目まで引き出せる場合もあります。
△デイト機能がないものは大抵一段のみです
△写真で見ると微妙な差ですが、自分の手で触っていると意外と分かります
この時、力いっぱい引くのではなく、軽く優しく扱うようになさってくださいね。
「ふん!!!」ではなく「ほい」くらいの力加減でお願いします。
もし引き出しにくければ、クロス越しに爪を使って引き出してみるのもアリですよ!
リューズを回して時針、分針が動くことが確認できたら、くるくる回して任意の時間に合わせましょう。
ちなみに
当店では、ネットショップでご購入いただいた方に発送する際、時間を合わせてお送りしております。
そのとき時間合わせに使っているサイトがこちらです。↓
https://www.nict.go.jp/JST/JST5.html
「JST」ジャパンスタンダードタイムの略です。良ければどうぞ。
リューズを一段引いてみる
ゼンマイを巻ける状態から、一段引き出してリューズを回したとき。
・時針、分針が動き、時刻調整できるようになる
・デイトの表記が変わる
・短針だけ動く
・その他(スカイドゥエラーなど)
このように反応が分かれてきます。
時針、分針が動き、時刻調整できるようになる
デイトのない、シンプルなお時計の場合、一段引くのみであることがほとんど。
先程例として載せたこちらも、日付表記がなく、一段のみ引き出せるタイプでした。
△10時位置にあるリューズみたいなやつは「ヘリウムエスケープバルブ」といいます。今回は割愛です
△オメガ シーマスター ダイバー 300m コーアクシャル マスタークロノメーター 007エディション ブラウン 210.90.42.20.01.001
また、「日付表記はあるけどリューズは一段しか引けません、クイックチェンジのボタンもないです」というタイプもあります。
こういうタイプの日付合わせってちょっと大変ですよね。
△でもそれを許せてしまうほどのシンプル&スリムな美しさ……
△ノモス オリオン デイト ブルーハンド シルバー OR1B3GW238 / 380
初めての機械式時計購入の際には、このような点も気にしてみるとよさそうです。
デイトの表記が変わる
針は動かず日付だけが変わっていく場合は、この状態から日付の調整に入ることができます。
カレンダー機構だけが回るので日付も合わせやすいですが、針の位置には注意しましょう。
「禁止時間帯」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。
カレンダー機構の歯車と時刻の歯車が噛み合う時間帯に針を置いたまま日付を変えようとすると、歯車に無理な力がかかって壊れてしまう原因となります。
午後8時~午前3時がその禁止時間帯にあたるのですが、事前に6時で合わせれば大丈夫!ということを覚えておけば、禁止時間帯を忘れてしまっても安全に日付調整ができるかと思います。
最近は禁止時間帯のないお時計も出てきていますが、私は万が一精神で全部6時に合わせてから調整するようにしています!
△AM6時に合わせて……
△日付を合わせて……
△その後に時間を合わせます。なんだかぼんやり赤いのは、私のスマホが赤いせいです。
△IWC パイロットウォッチ マークXX IW328204
AMの6時に合わせたのは、「せっかく日付を合わせたのに、時間を合わせようとしたら深夜0時を通って次の日になってしまった!」「時間を合わせたと思ったら12時間ずれていた!」というプチ事故を防ぐためです。
短針だけ動く
GMT機能が付くお時計は短針だけ動く場合が多いです。
第四の針ともいわれるGMT針との時差をつけるため、こういった仕様になっています。
この場合は短針をぐるぐる回して任意の日付に合わせる必要があります。
この仕様の場合は禁止時間帯がないので、やや手間ではありますが気楽に日時を合わせることができます。
長針は回さなくていい分、いくらかは合わせやすいところも良いと思います。
△セイコー グランドセイコー エレガンス コレクション キャリバー 9S 25周年記念 1700本限定モデル SBGM253 / 9S66-00M0
その他
上記でご紹介した通り、基本的に「ロックを解除してゼンマイを巻き、一段引き出してリューズを回す」のですが、機能が多かったり個性的だったりすると、そう一筋縄ではいかないお時計もあります。
例えば、ロレックスのスカイドゥエラーは「ベゼルの位置によってリューズで操作した時の動く場所が変わる」時計です。
ベゼルを回して時刻調整。ベゼルを回して月日の設定……など、覚えてしまえば直感的な操作で操ることができるようになっているのがスカイドゥエラー。なんかmacみたいですね。🍎💻
他にも「リューズを引き出して、こっちに回すと日付変更。逆側に回すと曜日変更」「リューズが2時と4時にふたつあると思ったら片方はアラーム機能やインナーベゼル用」など、複雑な構造をしたお時計はまだまだあります。
△ロレックス デイデイト 36 128238 カーネリアン
△ジャガールクルト ポラリス デイト Q906863J/857.8.A0.S グリーン
機械式時計、奥深すぎて底が見えないですね。
リューズを閉めることも忘れずに
日時の調整ができたら、しっかりとリューズを元に戻しましょう。
ねじ込み式であれば押し込みながら12時方向へ回し、そうでなければカチッと押し込むことで、リューズを閉めることができます。
この閉める作業を忘れてしまうと、思わぬお時計の事故に繋がりかねないのでご注意くださいね。
*
なお、当店でお時計をご購入いただいた方には「オーナーズガイド リーフレット」が付属します。(2024/1現在)
日々のお手入れやご使用上での注意点、リューズの位置や使い方に関しても記載がございますので、当店をご利用の際はぜひお確かめください。
また、別のスタッフによる「ねじ込み式のお時計の使い方」の動画も過去にアップされておりますので、よければご覧くださいませ。
https://youtu.be/iQKvQ-TxKgY?si=l1EME8kAok3CzqBJ
おまけ
新年から長々お読みいただきありがとうございました。
最後に辰年に関係あるような、ないような問題です。
Q.「辰の刻」とは何時くらいのことでしょうか?
・朝8時くらい
・昼13時くらい
・夜20時くらい
・深夜3時半くらい
答えは~~~、
「朝8時くらい(正確には午前7~9時)」でした。🎉
何なのかといいますと、24時間を12に分け、それぞれに動物がひとつずつあてがい、時間を捉える考え方がありました。
それがこの「十二辰刻」で、十二時辰とも呼ばれます。
12の動物は皆様もご存じの干支と同じ動物が使われていて、「辰の刻」はその内の朝7~9時を担当していたというわけです。
ちなみに、「丑の刻参り」「お八つの時間」「午前、午後」などは全て十二辰刻から広まった言葉です。
「十二辰刻」そのものに「辰」という字が入っているのも何だか特別感がありますが、この辰という漢字には「日時、方位」の意味もあるそうです。ドラゴンと時間の関わりを感じずにはいられません。
十二支の中で辰/龍だけ現在の地球にはいないとされていることもあって、ちょっとわくわくしてきました。
これをもとにゲームとか作りたいですね。
それでは2024年も、中野の時計店「れんず」をどうぞよろしくお願いいたします!
NY
↓辰年関連の記事はこちらをどうぞ↓
↓別の方が書いた機械式時計の使い方に関する記事はこちら!↓